土壁の家ー壁土強度試験

2022年2月11日

北海道で土壁の家づくりを模索する理由のひとつは、寒冷地にあっても、すまいの温熱環境として良いものができると思っているからです。

1月に北海道・十勝の製材所が竣工しました。私にとってこれまでで最も寒い地域での設計。いつものように防湿シートを使わずに計画しようとしたのですが、結露計算(定常計算)をしてみるとわずかに結露することがわかり断念しました。同時に、土壁であれば結露しないこともわかったのです。厚さ70mmの土壁の外側にウッドファイバーを張った条件で計算すると、Ⅱ地域であっても結露しないのです。防湿シートは必要ありません。さらに調べてみると、外壁の通気層を45mm以上確保すればⅠ地域でも結露しなさそうだということもわかってきました。(Ⅰ地域の確信を得るにはもうすこし調査が必要)

さらに、土の蓄熱性もくらしを快適にしてくれるはずです。『伝統民家の生態学』(花岡利昌著/海青社)にアイヌの伝統的なすまい「チセ」についての記述があります。

チセは土座のつくりで、床となる土の蓄熱性を生かしたくらし方をしていたようです。花岡さんらが昔のアイヌの人たちの話を参照しながらチセに宿泊体験をする記述はとても興味深いものがあります。チセのなかには土間に設けられた炉があり、冬はもちろん夏でも焚火で土間に熱を加え続けたといいます。そして、暖かくしようとして勢いよく燃やすと、強い上昇気流が起こり、隙間から冷気がどんどん入って逆に寒さを感じるとして、微弱な燃焼を続ける重要性を体験で確認しています。「冬季のチセの防寒性能とメカニズム」の項で花岡さんは次のように述べています。

「土座生活(土壌の恒温性により冬季の室温より土間の温度が高い)による温感」

「微弱燃焼の長期連続加熱による土間への蓄熱(夏でもチョロチョロ焚火を続けることによる)。微弱燃焼はまた、屋根の雪を溶かさないので雪の断熱性を保つことが出来る」

こうしたくらし方によって冬の生活をしのげる暖かさを確保していたのでしょう。現代の私たちが土座のくらしに戻る必要はありませんが、花岡さんによるチセの話は、土の蓄熱性がすまいにどんな効果をもたらすかを示していると思います。

さて、この写真は十勝の製材所を施工した大工の木村さんが送ってくれたものです。

幕別で見かけた民家だそうです。貫のはたらきを理解するのにピッタリの写真ですが、よく見ると土壁でつくられています。私はこうした家づくりの延長線上で暖かさを確保する工法を考えたいと思っています。「土壁の家は寒い」と選択肢からはずすのではなく、「土壁の家を暖かく」するわけです。土壁の良さを捨てる必要はありません。

(菅家)