12期生の星野将史さんが渡り腮構法で建築したシェアハウスの紹介です。

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1、計画にあたって

シェアハウス・ヨツバロッジの計画を行ったのは、もう8年前のことになります。

当時は東日本大震災の後で、人と人との繋がりや地域の中でのコミュニティーのあり方や、進む地域の高齢化の中で「住む」ことへの考え方が問われ始めてきていた時代でした。そのような情勢の中、自社で管理していた貸家が老朽化したため、解体してその後に何を建てるのかを検討することになりました。どのようなものを建てるかとあれこれ考えていた時に、当時、社会的に認知され始めてきていた、シェアハウスという賃貸住宅のハウス内にコミュニティーの生まれやすい住まい方を知りました。

その頃は比較的若い世帯に受け入れられていたシェアハウスでしたが、地域を活性化するには高齢者も若い世帯も共に存在することが重要です。これを作って地域に溶け込ませることができたら、高齢者と若い人をつなげることができ、地域での「住む」ということの一つの形を提案できるのではないかと考えたのがきっかけでした。

 

2、なぜ渡り腮構法なのか

ヨツバロッヂのコンセプトが「繋がり」と「癒し」なのですが、土壁と木組みの空間でそれを実現したく思い、渡り腮構法を採用して建てました。私自身、木や土の持つ何処か心安らぐ感じが好きですし、家に帰れば「ホッ」とできる家をここに作ってみたかった。渡り腮構法なら、それを住む人に安全安心に提供できるのではないかと思ったのが理由です。

実は、この建物の取り組み以前から、所属していた神奈川県建築士会で木造塾部会の部会長を務めており、丹呉先生や山辺先生にも講義を依頼して勉強会を行っておりました関係で渡り腮構法に触れておりました。また、自身で最初に渡り腮の住宅を計画していた時に、運良く東洋大学での渡り腮構法の実験住宅の引っ張り震動実験を見学させていただく機会をいただけたこともあり、渡り腮構法の一つ考え方の通った住宅の作り方に惹かれて、それからいくつかの住宅で渡り腮を採用し、アレンジを加えつつ住宅を建ててきました。そのように建築の活動を行っているうちに、大工塾の一期生の北山一幸さんや三重の増田拓史さんと知り合いになりました。ヨツバロッジを計画していた時は自社の若手大工の育成を行っていた時期でしたので、これも自社の社員がさらに経験を深める良い機会だと思い、その繋がりを活かして北山さんや増田さんともコラボレーションした学びの実践の場として、このシェアハウスの現場を活用するべく渡り腮構法で建築しました。

3、建ててから今まで

シェアハウス・ヨツバロッヂを建ててから早いものでもう7年ほど運営してきております。運営の最初の頃は脱法ハウスの問題が起こった時期であり、中身は脱法ハウスとは全く違うものなのですが、報道の影響もありシェアハウスに対する世間の風当たりは少し厳しかったかもしれません。しかしながら、ヨツバロッヂは居住者に恵まれたのかもしれませんが、雪の日に居住者の方が近所の道の雪かきを率先して行ってくれたり、隣の家の奥さんと仲良しになった女性の居住者が食べ物をおすそ分けしあったり、ハウスの住人が近隣の方を招いての餃子作りのイベントを企画してくれたり、当初から居住者の方が積極的に近隣の方と関係を築いてくださったおかげで、今まで近隣の方にも良いシェアハウスだと言っていただけています。

居住した方の評判も良いヨツバロッヂ、先日も新築してから7年間ずっとお住まいだった方がご結婚されて退去されましたが、「すごく名残惜しいのですが、この街が好きになったので2人でこの街に住みたいです。」そう言っていただけました。その言葉を聞いて、このハウスを作った意味があったとしみじみ思っております。

 

4、これからに思うこと

運営当初に比べると、あらゆるもので「シェア」の文化が広がり、今や若い世代だけのものではなくなりました。実際に中高年の居住希望者もおられます。

今、このコロナ禍でなんとなく人の繋がりが切れてしまっているような寂しさも感じますが、終息後を考えると、この時代だからこそ人との繋がりが求められているのかもしれませんし、これから先も「シェア」という文化は広がるものと思います。

また、進む高齢化の中で東京や周辺の都市部でも平成25年度以降10 %を超えてきた空き家の問題もありますが、既存の住まいをどう活用するのかと合わせ、地域での住まい方を改めてもう一度考える時代になってきていると思います。

ヨツバロッヂを運営してきて多くの経験を積みましたが、「これからの住まい方」を考えつつ、経験を次の仕事につなげていきたいと思います。

 

12期生 星野将史

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株式会社星野土建のHPにも紹介されています。